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神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和48年(家)1383号 審判 1974年7月18日

申立人 松村恵美子(仮名)

後見人 斉藤あき子(仮名)

禁治産者 松村絹子(仮名)

主文

本件申立をいずれも却下する。

理由

一  本件申立の要旨

申立人は、「禁治産者松村絹子の後見人斉藤あき子を解任する。禁治産者松村絹子の後見人に申立人松村恵美子を選任する。」との審判を求め、その理由を要旨次のとおり述べた。

1  禁治産者松村絹子(以下「禁治産者」という)の後見人は、当初その父松村幸一郎が選任されていたが昭和四七年七月一七日同人死亡後同四八年三月一六日禁治産者の実子斉藤あき子が選任され、同時にその後見監督人に原実が選任された。

2  しかし、後見人斉藤あき子には次のとおり禁治産者の後見の任務に適しない事由がある。

(一)  斉藤あき子は、民法八四六条五号にいわゆる「被後見人に対して訴訟をしている者の直系血族」に該当するから、後見人として欠格である。すなわち、同人は昭和四二年一月一三日(当時一八歳)松村明男夫妻の養子となる縁組をした。この縁組は単に形式的になされたものではない。あき子は同縁組前から明男方に同居し、同四五年一月斉藤秀夫と婚姻するまで明男夫妻と生活を共にしていたばかりでなく、同婚姻も明男夫妻の世話によるものであり、結婚後は明男所有建物に無償で居住している等、明男とは極めて緊密な関係にある。

ところで、禁治産者の父松村幸一郎は昭和四二年一二月明男を被告として大阪地方裁判所に対し株式移転無効確認請求の訴を提起し、同事件は同庁昭和四二年(ワ)第六八一一号事件として現に係属中であるが、幸一郎が同四七年七月一七日死亡したため、禁治産者は幸一郎の共同相続人の一人として同人の上記訴訟上の原告たる地位を承継するに至り、その結果禁治産者と明男とは訴訟上相対立する当事者となつた。

したがつて、あき子は、禁治産者と訴訟上の対立当事者である明男の直系血族に該当することとなるから、民法八四六条五号により禁治産者の後見人となることができない。

(二)  実質的にみても、あき子は、前述の如き明男との密接な関係から、明男の利益を先ず第一に考えて行動するため、禁治産者の利益を犠牲にするおそれが強い。

明男と禁治産者との間には、上記訴訟のみならず、幸一郎の遺産分割をめぐつても鋭い対立がある。すなわち、幸一郎は遺言をもつて同人の法定相続人中久雄についてのみ相続分を零と指定したため、禁治産者を含む他の相続人三名と明男との間に特に顕著な対立を生じ、現在遺産分割申立事件が神戸家庭裁判所尼崎支部に係属中である。

以上の如き事情を背景に考えると、もつぱら久雄の利益を第一として行動するおそれのあるあき子を禁治産者の後見人とすることは極めて不適当である。

(三)  また、あき子は昭和四八年三月一六日後見人に選任されて以来なんらその職務を行わず、禁治産者の療養看護についてもこれを申立人に委ねたままで、禁治産者は依然として申立人と同居し生活を共にしている状況である。この点からみても、あき子は禁治産者の後見人として不適任である。

二、当裁判所の判断

1(欠格事由の存否)

本件調査の結果によると、斉藤あき子は禁治産者が杉本年男と婚姻中にもうけた子であるが、昭和四二年一月一三日母(禁治産者)の弟松村明男夫妻と養子縁組をしたこと、禁治産者の父松村幸一郎は昭和四二年一二月参男明男を被告として大阪地方裁判所に対し株式移転無効確認請求の訴を提起し、同事件は同庁昭和四二年(ワ)第六八一一号事件として現に係属中であるところ、幸一郎が同四七年七月一七日死亡したため、禁治産者は幸一郎の共同相続人の一人として同人の上記訴訟上の原告たる地位を当然承継したことが認められる。そうすると、あき子は明男の養子であるから、一見したところ、民法八四六条五号により禁治産者の後見人となることができないかの如き観を呈する。

しかし、民法八四六条五号の立法理由を考えると、民法は後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所か一定の者の請求又は職権でこれを解任することができると規定する(八四五条)とともに、八四六条において一般外形的に後見人として著しく不適格と認められる者を列挙し欠格者としており、その欠格者の一類型として、同条五号は「被後見人に対し訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族」を後見人の欠格者としているが、その立法理由は、一般に、これらの者は被後見人と対立した利害関係に立つうえ、被後見人と感情の融和を欠くため、後見人としての職務を誠実に果すことが期待できないためであると考えられる。この立法理由から考えると、同号は一般に訴訟における対立当事者の一方の直系血族は他方当事者の直系血族には該当しないという通常の場合を想定した規定であつて、一般的に上記立法理由が該当するとはいえない場合、すなわち対立当事者双方といずれも直系血族の関係にある者の場合には、その直系血族は被後見人と対立した利害関係に立つとか、被後見人と感情の融和を欠くとか、後見人としての職務を誠実に果すことが期待できない等とは、一般にはいえないことは明らかであるから、たとえ被後見人と訴訟をしている対立当事者の直系血族であつても、その者が同時に被後見人の直系血族でもある場合には同号所定の欠格者には該当しないものと解するのが相当である。したがつて、あき子には民法八四六条五号所定の欠格事由はない。

2(禁治産者の利益軽視の主要について)

申立人は、幸一郎の遺産分割問題や上記訴訟事件において禁治産者と明男との間に鋭い利害の対立があるところ、あき子は禁治産者の利益を軽視し、もつぱら明男の利益を第一として行動するおそれがある旨主張するが、この主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえつて、あき子は禁治産者の唯一人の子であるうえ、現在は後見人としてその全財産を管理している者であり、遺産分割や訴訟等で禁治産者の不利益となることは結局自己の不利益に連結することを十分認識しているのであるから、禁治産者の利益を軽視し、もつぱら明男の利益を第一として行動するとはとうてい考えられない。

3(任務懈怠の主張について)

申立人は、あき子が後見人就任以来なんらその職務を行わず禁治産者の療養看護についてもこれを申立人に任ねたまま放置している旨主張するが、本件調査の結果によれば、あき子は後見人としての職責を十分果していると認められ、後見人解任の事由とされるが如き任務懈怠は認められない。また、あき子が禁治産者の療養看護を申立人に委ねたまま放置している事実もない。

4(結論)

以上のとおり、申立人主張の後見人解任の事由はいずれもこれを認めることができず、他に後見人斉藤あき子を解任すべき事由があるとは認められないから、本件申立はいずれも却下せざるをえない。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 庵前重和)

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